【2024・夏 卸売業界レビュー】"PALTAC/あらた"積極策で拡大続く大手

全国の正月ムードを一気に吹き飛ばした元日の能登半島地震。生活インフラとしての流通機能は卸売業、小売業の努力もあって回復しつつあるが、一部地域ではまだ万全とは言えない体制のままだと言われている。現地に拠点を持つ卸売業でも一部被災したところもあり、改めて震災への備え、対策を考えさせられる出来事となった。
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そんなスタートを切った2024年の卸売業界。ここまで最大の話題を集めたのは人事面と言ってよい。国内唯一の化粧品・日用品卸売業の業界団体である全国化粧品日用品卸連合会(全卸連)のトップであり“業界の顔”とも言える会長の職は、前会長の森友徳兵衛氏の急逝から空席になっていたが、2月の常任理事会を経て4月に東京堂の小野瀬光隆社長が就任。難航していた後任選びに、ようやく決着がついた。同時に、故・森友氏が兼任していた東京都化粧品日用品卸連合会の会長には、森友通商の森友由社長が就任した。
しかし、ここへきて東京堂が会社分割により伊藤忠グループへ事業譲渡することを発表。社長の交代も行われるため、全卸連は当面は小野瀬会長体制を継続する意向ながら、近く再度の後任探しを余儀無くされる見通しだ。
化粧品、日用品を取り扱う業界の卸売業者は、約40年前には全卸連に加盟しているだけでも2000社を超えていたが、ここまで合併、廃業、倒産の歴史を重ね、現在はかつての10の1以下に減少している。それだけ会長の候補者、すなわち業界全体の発展のためを思い、ある意味“公職”を務めるのにふさわしいと認める経営者の数もまた、卸売業者の数に比例して少なくなってきたことは否めない。経済環境、経営環境の厳しさから、自社のことだけで手いっぱい、団体の長としての職務まで全うできないという声が出てきても無理はない。
それでも、再度の空白期間が生まれることは業界にとってメリットが無いばかりか、全体の活動にも影響が出かねない。サプライチェーン全体の活力を削いでしまう可能性もある。官庁や行政、異業種との関係、あるいは業界各社相互の交流、情報交換などから新たなビジネスチャンスにつながることも少なくない。安定した組合活動を継続していくためにも、早期に問題解決の糸口を探りたいところだ。
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業績面で見ると、卸売業各社によって千差万別の状況にあるが、コロナ禍が明けて以降も、特に大手全国卸において積極的な取り組みに伴う強さが際立っている形だ。
PALTACの2024年3月期決算は、売上高約1兆1519億円で前期比4・3%増と堅調に推移した。これは当初の計画に対し100億円近い上積み。営業利益は約271億円で前期比11・0%増。コロナ禍が明けて、人々の外出機会が増え、関連商材の需要が拡大したことに加え、新規商材の取り扱いを強化するなどの施策が奏功した。訪日客数の顕著な増加でインバウンド需要も拡大した。合わせて、売上高拡大に伴う売上総利益の増加、変動費の抑制や固定費吸収効果により販管費率が低下している。
新たな決算期に入り、このほど発表した24年4~6月期の業績も、前期からの良い流れが続き、売上高は3・2%増となった。外出機会増加に伴う化粧品や医薬品、またインバウンドの需要拡大は、その効果が一巡して増収幅が穏やかになりつつも、伸びは継続中だ。商品面では、高付加価値品が堅調に推移している。ただし、物価高騰に伴う節約志向が特に日用品の販売数量に影響している中で「選別消費が定着し、単価上昇率は徐々に穏やかになりつつある」と分析する。
また同社は、27年3月期を最終年度とする新中期経営計画を公表した。長期ビジョンを「つなぐ力で人と社会のミライを創る」と定め、自社の存在意義、収益機会の獲得、リスクの低減の観点から、優先的に対処すべき課題を設定し、変化をとらえた持続的成長を目指すとした。中計では、売上高1兆2700億円、営業利益300億円と、24年3月期比でいずれも2桁増を狙う。
あらたの24年3月期決算は、売上高約9441億円で前期比5・9%増となった。営業利益も13・5%増の145億円と、それまでの取り組みの成果を表した形となった。貢献したのは、以前から積極的に施策を進めてきた化粧品及びペットカテゴリーの拡大で、特に化粧品は専売・優先流通品の拡大で独自性を強化してきた。グループ会社のジャペルによる専門性を生かした提案も奏功。ITを活用した生産性向上も成果を見せた。
トピックスとして、今年3月には同社自身初となる総合展示会を「あらたCollection2024」を都内で実施。主要164メーカーの出展と合わせて、あらた独自の商品、サービスを提案するコーナーなどを展開した。2日間の会期中、延べ1600人の来場者を迎え、盛況を極めた。
様々な施策をブラッシュアップしながら継続する一方、物流面での施策にも積極的なところを見せる。28年に稼働予定の物流センター「関西新センター(仮称)」の建設を開始。最新鋭のマテハン装備により労働力不足に対応し、働く従業員にも優しい省力化センターとして、物流問題の解決の一助にしたい考えだ。加えて、札幌市でも新物流センターを建設するための土地を取得。長期ビジョンの戦略に対応する北海道内の物流網の柱として位置付ける。
(詳細は「日用品化粧品新聞」8月5日号/または日本経済新聞社「日経テレコン」で)